怒髪天と旧知の仲であるブラス、キーボード、コーラス、ギタリストメンバーで結成された総勢13名編成の怒髪天&THE JO-NET(以下、D&J)。
ブルース・ブラザーズ・バンドを髣髴させるサウンドで怒髪天の楽曲に大胆なアレンジを施し云々と、事前情報は何かしら仕入れていたものの、その全貌はただただ霧の中。
だが遂に2011年11月4日(金)、大阪NHKホールにて謎のベールに包まれたそれが明らかになったのだ!


 開場中のBGMは雰囲気のある60〜70年代のオールディーズ。
この時点で“いつもとは違う”感がひしひしと伝わってくる。
そして、怒髪天の楽曲は一体、どうなるのか…!?という界隈たちの期待感が早くも熱気となり会場を覆っている。


 と、そのとき……歴史が動いた!
開演を告げるブザーが鳴り、待ってましたのご開帳!
『D&Jのテーマ』で幕開けだ。そして拍手喝さい、オールスタンディングの中、迎えられたのがスーツにリーゼントの増子直純!
「レディース&ジェントルマン! よく来た!よく来た! We are 怒髪天&THE JO-NETS!」との口上から『東京衝撃』へ。
ビッグバンドの迫力をのっけから発揮した強烈なサウンドに、この夜がタダゴトではないことを思い知らせる。続いて『ハッピーバースデイマン』を。
こちらも祝祭的な雰囲気に彩られ、ただただ楽しい!
MCでは開口一番、「これは本当、観ないと絶対損だからね!タダゴトじゃない!いつもと違うよ!しかも、スケジュールとギャラの都合上(笑)、もう二度とこのメンバーでは観られないよ!」と増子。
そして「もう2曲が限界!」とジャケットを脱いだ。相当、暑かったようだ。















勝手にしやがれのブラス隊によるイントロで瞬時に火がついた『ラブソングを唄わない男』。
アルバムを再現したかのような『オレとオマエ』では、間奏での上原子友康のギターがそれはそれは伸びやかで、天井を突き抜けて大阪の空に響き渡った。
『大人になっちまえば』では、奥野真哉のアコーディオンが何とも郷愁的。
その上、異国情緒も漂っており、新たなる世界観を見た。
『3番線』では、カトウタロウのアコースティックギターと上原子のギター、そこに絡みつくオルガンの音。電車の走行音のようなコンビネーションで聴かせる清水泰次のベースと坂詰克彦のドラム。
そしてうつみようこ、鈴木由紀子、菜花知美からなる“男前シスターズ”による柔らかな女性コーラスも重なってと、叙情豊かなアレンジが実に聴き応えあり。
歌詞のように、どこか違う場所へと降り立ったかのような余韻の中、「改めましてこんばんは! いいネ! ヒジョーにいいネ!」という増子のMC。
いつもながらの挨拶だが、『3番線』の余韻からハッと夢から覚めたような感覚に陥った。それほどにD&Jのアレンジが、“いつもとは違う”のだ。


 MCを挟んだ後、『サムライブルー』では、ブラスとツインギターが全面に押し出されたサウンドに突き抜けるような強さを感じる。
ごく個人的な心情が綴られたこの歌は、それこそ個人個人の胸に直接訴えかけてくるものだ。
しかし、この編成でのサウンドには、この歌の持つ普遍性がもっと広い世界へと飛び出したかのような印象を受けた。
そして、それは歌が歌を越えた瞬間でもあった。曲が終わると沈黙が会場を支配する。
そんな中、静かに流れ始めたのはピアノの音。そして全体を包み込むようなボーカル。
『サンセットマン』だ。
黄昏色に染まるステージ。顔にかかる影。心の琴線に触れまくるのは上原子による泣きのギター。
壮大な景色を描いたアレンジも見事で、この2曲は本当に、息をのむほどの美しさと迫力があった。
ちなみに、これらは作曲を手がけた上原子の頭の中で鳴っている音を再現したものだそう。
雰囲気は一転、ピアノ、ベース、ドラムによるジャズセッションが。
そのサウンドに乗って「クラブD&Jへようこそ!」と増子。
どうやらそこは、やっちゃったな~、しくじっちゃったな~、嫌になっちゃうな~というドンマイエピソードを話す秘密クラブのよう。
ライブ前に額の毛を剃り過ぎて、中2ばりの剃り込みを入れてしまった増子直純・45歳、上原子の自転車が盗まれてそれこそ怒髪衝天だったこと、と次から次へと語られる中、カトウの周辺がどうにも騒がしい。機材トラブルだ!しかし、そこは大人の余裕。
さらにドンマイエピソードを盛って時間を稼ぐが、なかなか見えない収束の気配。
「このままじゃ面白い話をするジャズバンドになっちゃうよ!」と増子が危機感を募らせたそのとき、トラブル解消!皆で苦難を乗り切った!という団結力も生まれて、その後の『ドンマイ・ビート』での盛り上がりは言うに及ばず。
増子×うつみによるソウルフルなデュエットで昭和のメロディーを歌い上げた『トーキョー・ロンリー・サムライマン』、
 

奥野VSカトウVS上原子という三つ巴でのソロバトルでプロレス的な面白さを見せた『ヤケっぱち数え歌』では、レフェリー増子の名裁きもお見事。
静と動の対比も見どころだった『82、2』は、“限界”をさらりと超えたサウンドで大いに沸かせた。

 D&Jでのアレンジを「君たちの彼氏や旦那が、何かの記念日でタキシードを着たみたいでしょ!」と喩える増子。なお、いつものライブはスウェット、ジャージとのこと。
また、いつもより後ろの位置で演奏する清水に増子が「シミはちょっと後ろだから寂しいね!」。それに対して「気分は細野晴臣だよ!」と清水。

 ステージは怒髪天とカトウと男前シスターズだけに。
カトウのアコースティックギターが奏でたのは『枯レ葉ノ音』のイントロだ。
今回の編成の中ではシンプルな組み合わせだが、よりロック色が強くなっている。
そして、つむじ風を巻き起こし、螺旋を描くようにぐんぐん上昇していった間奏は、これぞ怒髪天の真骨頂だった。
続いては怒髪天+カトウによる『そのともしびをてがかりに』。
ろうそくの明かりのような照明も印象的で、ホールならではの整列した拳には、生きているその場所での意思表示を見た。
鐘の音のように響く清水のベースから始まった『夢と現』では、オルガン、ボーカル、ドラム、ギターと音が重ねらるたびに景色が広がってゆく。
詞の持つ物語性も鮮やかで、あらゆる人生の断片が浮かんでは消えた。

そんな世界を一気にひっくり返したのが、上原子のギターと男前シスターズのコーラスだ。
増子もバンマスよろしく指揮をとり、悲哀たっぷりのコーラスを披露。
それを引き金に『労働CALLING』へ。賑やかにウンガラガッタで踊り狂う老若男女。
ブラスも加わっての『オトナノススメ』でもバンバンやってと、その節操のなさが愉快、痛快。
続く『全人類肯定曲』では、贅の限りを尽くしたビッグバンドならではのサウンドに体がふわりと浮いた気がした。






 直後のMCでツアーのために買ったズボンが裂けてしまったと増子。「このズボンをダメにするぐらい頑張ってるってことだよな! 今日は最高だ、ありがとう! 今日で全力を使い切りそうだよ。ツアーファイナル的だ! ズボンも破れるし!」と、実にポジティブ。
そして「また破けそうな曲だけど、いいか!?」と煽って『情熱のストレート』へ。ステージには奥野も登場し、全員集合。これまで聴いたことのないアレンジで渾身の一発をお見舞い。
『ニッポンラブファイターズ』では、ビッグバンドと応援団を掛け合わせたサウンドでまるで野球場meets紅白歌合戦のよう。
そして本編最後を飾ったのはサンバのリズムでおなじみの『セバ・ナ・セバーナ』だ。イントロ中に「最高だ! ものすごい幸せ! ありがとな! ありがとな! 踊ろうぜ!!」と増子。もちろん大きな歓声で応える界隈たち。こちらもまたアルバムでも聴いたことのないサウンドで、紙吹雪が舞っていてもおかしくないような大フィナーレを迎えたのだった。

 アンコールではカトウが一人、登場し、漫談的なMCを。
次いで順にバンドメンバーがステージに現れ、最後にはこの一言であの方が登場!「アニキー!」。
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンと言わんばかりに、スポットライトの中へ増子が飛び込み、「待たせたな!」。

 

そして歌うは『アニキのロケンロール』! 絡み合うピアノ、ドラム、ベースに、ツインギターの合わせ技と、聴きどころも盛りだくさんのロケンロールで楽しませてくれた。
そして新たな息吹が芽生えたように思えた『男達のメロディー』。長きに渡って歌い込まれたこの楽曲が、また違う生命を得て生き生きとしていた。
“20年に一度のラブい歌”『武蔵野流星号』はより華やかに。グイングインうなる上原子のギターソロにも参りました!
息つく暇なくオープニングでかかった『D&Jのテーマ』を再び演奏、メンバー紹介へ。〆はやっぱりこの方、坂詰克彦!
そうして大ラス、このフレーズを叫ばずして終われない『喰うために働いて生きるために唄え!!』。
ステージもフロアも大合唱。場内に響き渡る歌声を聴いているうち、気がつけば未知なる地平に立っていることに気づかされた。それはとても美しく、楽しく、多幸感あふれる場所だった。怒髪天のライブではいつも、いろんな気持ちを受け取っている。
それとはまた別の次元で、D&Jは行ったことのない、とびっきりいいところに連れて行ってくれていたのだ。一緒になって大声で歌いながらも、そんな世界を見せてくれた怒髪天に、猛烈にありがたいと思った。


 かくして、最高に楽しかったD&Jによる「LIVE ALIVE TOUR 2011 "GOLDEN MUSIC HOUR"」は幕を下ろし、キャラバンは東京へと旅立った。きっと後にも先にも現れないであろう(!?)前代未聞のビッグバンド、怒髪天&THE JO-NETS…もはや、伝説である。



テキスト:岩本和子(ぴあ関西)






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